夕焼けの音
川端豊子(著)
あらすじ
主人公の私は五十歳の女性で家政婦をしている。夫は単身赴任で、息子は就職して家を出た。家政婦紹介所から派遣された先の女主人、片桐蕗子(七十八歳) は耳が聞こえないので、手話ができる私が抜擢された。蕗子の夫、静夫は二年前に亡くなった有名な画家だ。私が蕗子に仕えた半年間の出来事が綴られる。 二日間仕事が休みの間に私の友人、翠が突然亡くなり、葬式に行く。一方、蕗子には癌が見つかり二週間後に入院することになる。私は落ち込む蕗子を励まし たくて、蕗子が昔静夫と一緒に撞いたという禅寺の鐘をもう一度蕗子に撞かせるためにその寺へ連れて行く。寺の中の木立でけたたましい蝉の鳴き声を聞くが、そ こで蝉の死骸を見つける。翠の突然死を思い出して生の儚さを思い知る私。禅僧に導かれ蕗子が鐘を撞く。耳の聞こえない蕗子が全身でその音を感じる。入院の 日、私のお蔭で色んな音を思い出すことができた、と蕗子から感謝される。入院してから数か月、蕗子を待ちながら蕗子の家の窓を開けると、私の耳に夕べの鐘の 音が聞こえてくる。