シルエット・R
三ヶ島零(著)
あらすじ
主人公の私は五十歳の女性で家政婦をしている。夫は単身赴任で、息子は就職して家を出た。家政婦紹介所から派遣された先の女主人、片桐蕗子(七十八歳) は耳が聞こえない
港に流れ込む小さな川に跨がるようにして建つ古い長屋にただ一人、誰とも交流を持つことなく残された日々を年金で費やしていく日々だ。そうしたR老人のただ一つの生き甲斐は、町のあちこちに捨てられ、それでも生きていく野良猫達に毎日、餌をやることだった。冬も夏も、雨も風も厭わずに、朝、夕に餌を与える。その為に、自転車に跨がり、昔の重労働の故か極端に曲がった背中を見せて町中を巡回するのだ。そのシルエットは正にRの文字そのものだ。その猫達の一部が小学校の登校ルートにあった。児童の母親達は野良猫とそれに餌をやり続ける異質なRを嫌悪した。揚げ句、猫達は駆除される。Rは落胆の底に沈む。尚も、放火事件に巻き込まれながら、Rは心臓発作を起こし、ペースメーカーで新しい生を得る。人は人なくしては生き得ないことを悟り、近所の幼い子供との触れあいに、忘れていた物を取り戻すのだった。