尾を喰う蛇
中西智佐乃(著)
「新潮」2019年11月号に掲載
あらすじ
灰白色の床の廊下は、絞られた明かりで霞んだようになっている。左側に並んでいる病室からは布団が擦れる音、くぐもった鼾、電子音、呼吸が染み出してくる。小沢興毅はアシックスのスニーカーで靄の中を割くように進んでいった。
夜勤の仕事を嫌がる人は多い。職員が削られ、抱える患者数が一気に膨れ上がる。時間帯によっては担当がフロア全体になる事もある。けれど興毅はそこまで嫌ではなかった。身長が一八六センチで体格もいいため、人がいない分、腕や足を大きく動かしやすかった。